床下エアコン設置をお勧めしない理由

【質問】

地中熱活用住宅「エコシステム」では冬の住まい方として「床置エアコン」「床下システムによる生活熱活用」をお勧めしております。

これらは冬季の住宅内に上昇気流が生じることを活用し、地中熱活用住宅で効率よくお住まいになっていただくための方法です。
これについて、よくご理解いただけたお客様からは
住宅の一番下にある『床下』にエアコンを設置すればもっと暖房も床下蓄熱も効率よくできるのでは?
とご質問をいただきます。

しかし床下空間でのエアコン運転は室内での運転に比べ、逆に効率が大きく下がる可能性が高くなります。その理由として
「1.住宅外部への熱損失量が大きくなる」
「2.床下で暖房した暖気は壁空洞を伝わって小屋裏へ溜まり、床下を効果的に暖めることが出来ない」ことが上げられます。

「2.」については外断熱工法の特性としてご理解いただけると思いますが「1.」について「なぜ外部への熱損失量が大きくなるのか?」を下記にご説明いたします。

【回答】

■住宅に必要なエアコンの暖房能力

住宅内の温度を一定に保つには、「室内から外部に逃げた熱」と同じ分だけの熱を補充する必要があります。
当社の外断熱住宅の外気への「熱損失量」は内外温度差1℃のとき1時間あたりに約350Wです。(50坪程度の場合)熱損失は温度差に比例して大きくなりますので、


室内15℃、外気0℃のときの外気への総熱損失量は
350W/℃・h×(15℃―0℃)=5250W


当社の外断熱住宅の断熱性能レベルは非常に高いのですが、5.3KWもの熱が外部に逃げていることになります。つまり、外気温0℃のとき15℃の室温を維持するためには
「5.3KWの加熱をしなければならない」ということを表しています

ところで、完全外断熱工法では「室内」と「外気」の間にもう1つの空間があります。壁空洞、小屋裏、床下などの部分です。ここでは、壁空洞・小屋裏・床下の空間をまとめて「外気緩衝空間(がいきかんしょうくうかん)」と呼ぶことにします。

エコシステム 外気緩衝空間

エアコンの設置場所の違いについて次の下図のようなシンプルなモデルで考えて見ましょう。

■床下エアコンと室内エアコン設置の比較

床下にエアコンを設置した場合をA、室内にエアコンを設置した場合をBとして比較してみましょう。ここではエアコンの設定温度を18℃とします。
また外部に接する部分からの熱損失量は内外温度差1℃のときの壁・屋根からの熱損失量は260W、窓からの熱損失量は90Wとします。(当社外断熱住宅50坪程度の値)

1. 夜間の場合

床下エアコンと室内エアコン設置の比較

1. 夜間の場合
夜間は外気温が下がり、日射もないので室内温度は、窓面に冷やされて下がります。
Aの「床下エアコン設置」では外気緩衝空間をエアコンが暖めます。室内は外気緩衝空間によって周囲から暖められることになります。
外気へ逃げる熱量は、外気緩衝空間からは外気に接する屋根、壁部分から、室内からは窓から熱が奪われます。

A「床下エアコン設置」の外気への熱損失量は
屋根・壁:260W/℃・h×(18℃−0℃)=4680W/h
窓:90W/℃・h×(15℃―0℃)=1350W/h
合計:4680W/h+1350W/h=6030W/h

B「室内エアコン設置」の外気への熱損失量は
屋根・壁:260W/℃・h×(15℃−0℃)=3900W/h
窓:90W/℃・h×(18℃―0℃)=1620W/h
合計:3900W/h+1620W/h=5520W/h

Aでは約6kWの加熱が必要なのに対し、Bは5.5kWです。
AではBよりも1時間あたりに500Wも多く熱が逃げてしまいます。

ちなみに床下・室内の両方にエアコンを設置した場合をCとすると
C:350W/℃・h×(18℃―0℃)=6300W/h

2. 日中の場合

日中の場合

2. 日中の場合
日中、外気温は高くなりませんが室内は日射熱が豊富なためエアコンでの加熱の必要がほとんどありません。しかし床下空間は日射がないために温度を保つためには加熱が必要となります。

A「床下エアコン設置」の外気への熱損失量は
屋根・壁:260W/℃・h×(18℃−7℃)=2860W/h
窓:90W/℃・h×(20℃―7℃)=1170W/h
合計:2860W/h+1170W/h=4030W/h

B「室内エアコン設置」の外気への熱損失量は
屋根・壁:260W/℃・h×(15℃−7℃)=2080W/h
窓:90W/℃・h×(20℃―7℃)=1170W/h
合計:2080W/h+1170W/h=3250W/h

Aでは約4kWの加熱が必要なのに対し、Bは3.2kWです。
AではBよりも1時間あたりに700Wも多く熱が逃げてしまいます。

■ 考察

夜間は、Aの床下エアコン設置はBの室内エアコン設置に比べて、消費エネルギーが大きい上に肝心の生活空間である室内の温度が低くなってしまいがちです。また、日中は室温が充分であっても日射が入らない床下でエアコンが稼動し続けてしまいます。
Aのように床下にエアコンを設置することによって床下地中温度を高い状態に維持することができますが、その消費エネルギーは膨大です。また夜間などは床下地中よりも、肝心の室温が低めになってしまいます。
私たちの目的は「室内空間の温熱環境を良くすること」です。「床下温度を維持すること」は室内の温熱環境を維持するための1つの方法ではありますが、そのものが目的ではありません。
壁空洞、床下、屋根裏部分は外部との緩衝空間としての機能をしているとも言えます。
緩衝空間とは「室内と外気の間で外気の影響を和らげてくれる空間」です。
熱エネルギーの損失量は温度差に比例して大きくなります。エネルギーロスを抑えるには緩衝空間の温度は外部への熱損失を少なくするために室温よりも少し低めのほうがよいといえるのではないでしょうか?

現段階では地中熱活用住宅「エコシステム」は無暖房では「快適」と言うには床下地中温度が少々足りないのが事実です。
床下地中への蓄熱をさらに効率よく行い「快適性」を高くするためには、まず何よりも第一に住宅の外部への熱損失を少なくすることが最も大切です。このためには最も断熱性能の低い「窓」の性能を高くすることが効果的です。  

また「暖房機具の連続運転」や「床下システムを出来るだけ長い時間稼動する」ことで居住空間の生活熱を効率よく床下に放出し、床下空間の温度を過度に下げない工夫をすることで床下にエアコンを設置する以上に高い効果が得られると考えられます。
(床下へのエアコン設置は、床面や壁面に「床下・壁空洞との通気口(ガラリなど)」を設け、床下での暖房空気を上手に室内に取り入れる工夫を施すことで、場合によっては効率よく稼動させることも可能になるかもしれません。)

また、それ以外に床下にエアコンを設置することの問題点として、床下空間の温度を上昇させることによって乾燥が進み、木材がゆがみ、床材が反ったり、床鳴りが起こったりする可能性も考えられます。